日本水稲品質・食味研究会では、学術・技術の発展および本研究会の活動、農業現場におけるイノベーションに多大な貢献をされた団体・個人に対して、功績賞・技術賞等を授与しております。ここに、これまでの受賞者とその功績をご紹介いたします。
【功績賞】
2018年 株式会社ケツト科学研究所
業績名:日本水稲品質・食味研究会に対する支援と貢献
授賞理由:
株式会社ケツト科学研究所は日本水稲品質・食味研究会の理念と目的をよく理解し,研究会発足時から賛助会員として本研究会の活動を支援してきた。さらに運営面および資金面からの後援を通じて本研究会の発展に大きく貢献した。
2018年 株式会社サタケ
業績名:日本水稲品質・食味研究会に対する支援と貢献
授賞理由:
株式会社サタケは日本水稲品質・食味研究会の理念と目的をよく理解し,研究会発足時から賛助会員として本研究会の活動を支援してきた。さらに運営面および資金面からの後援を通じて本研究会の発展に大きく貢献した。
2019年 崔晶(天津農学院)
業績名:食味に関する日中共同研究の振興と人材交流の推進
授賞理由:
崔晶氏は,本研究会の設立発起人の一人であり,講演会には2009年の設立総会から2018年の第10回記念大会まで毎年参加している。また,設立記念シンポジウムで「東京大学・天津市政府共同プロジェクトにおける食味研究」,第7回シンポジウムで「中国における良食味米生産研究の現状と課題」,第8回シンポジウムで「中日の共同研究により水稲の品質・食味向上を推進する」というタイトルで基調講演の演者を務め,一般講演では11回(共同発表を含む)の発表を行った。これらの講演活動を通じて崔氏は,中国における食味研究の現状を紹介するとともに今後の中国における食味研究には日本との共同研究が欠かせないことを指摘してきた。その後,実際に中日の研究者による共同研究を企画立案して成果を挙げ,日中の学会や中国の政府機関から数々の賞が授与されている。さらに,中国水稲食味・品質研究会会長として中国で開催した国際食味シンポジウムに本研究会の日本人会員を多数招聘する一方で日本での研究会講演会に多くの中国人の研究者や企業人を引率して参加し,両国研究会の連携強化と会員の融和促進に努めてきた。
このように,崔晶氏は,長年にわたって日本と中国の食味研究協力の架け橋として活躍するとともに日中の人材交流に尽力してきた。よって,本研究会の趣旨である国際的発展に果たした功績は極めて大きく,日本水稲品質・食味研究会功績賞を授与するに値する。
2024年 王才林
業績名:食味に関する学際的研究と産業の振興
授賞理由:
王才林氏はこれまで2016-2023年の8年間において,国外(中国南京市)在住であるにもかかわらず本研究会の講演会に参加回数8回と積極的に参加しているとともに,中国における水稲研究に関わる最新知見を数多く発表するなどして,本研究会の学術の発展振興に大きく寄与している.また,講演会参加に際しては常に学域分野の異なる所属の研究員数名を引率して,日中間の会員相互の親睦を厚く図っている.発表課題数は筆頭者発表が7課題,共同発表が13課題の計20課題と多数発表している.講演内容は全て日本水稲品質・食味研究会会報に掲載されており,良食味に関わる水稲品種の育種,栽培および品質成分の遺伝解析まで多岐にわたっての価値ある成果であることから,学際的な講演会の充実化にも大きく貢献している.さらには,中国においてCAPS(Cleaved Amplified Polymorphic Sequence, 切断増幅多型配列)マーカーを用いて低アミロース遺伝子を導入した画期的なジャポニカ米良食味品種南粳46号を開発する.南粳46号を含めた南粳シリーズ品種の現在の普及栽培面積は約100万haで,江蘇省の粳米栽培面積の50%を占めるに至っており,米の食味に関連する産業を大きく振興している.これらの業績は学会や政府機関において高く評価され,多くの賞が贈られている。
以上のように,王才林氏が本研究会の発展に寄与した功績は誠に大であることから水稲品質・食味研究会功績賞に値する。
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【技術賞】
2022年 株式会社NTTデータCCS・岩澤紀生
業績名:水稲AI画像解析アプリ『Growth eye』の開発
授賞理由:
水稲の茎数や葉数などの観察を通じて幼穂形成期などの生育ステージを特定するには長年の経験で培ったカン・コツが必要であり,また水田の中に入っての作業が多いので時間的かつ労力的負担が大きい。したがって経験の浅い農業従事者や高齢の生産農家あるいは複数の圃場・品種を抱える大規模経営者がこれらの作業を実行するのは難しい。こうした現状に対応するために株式会社NTTデータCCSは、水稲AI画像解析アプリ「Growth eye」を開発した。
本アプリはスマートフォンなどで撮影した水稲の画像からAI が生育状態を診断するもので,このアプリを利用することで作付け時期や品種に関わらず効率的な栽培管理すなわち適切なタイミングでの中干しや追肥が可能となる。よって本画像解析システムは,新規就農や高齢化と大規模化が進む新しい時代の水稲農業における高品質・高収量生産技術として高く評価される。さらに,水稲AI画像解析アプリ「Growth eye」は国際特許を取得済みの世界初の技術であり,日本水稲品質・食味研究会技術賞に相応しい業績である。
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【貢献賞】
2022年 福川泰陽
業績名:持続可能な大規模稲作経営体への支援に向けた増収と良食味米生産の実現
授賞理由:
福川泰陽氏は,地域の米産地を支える大規模稲作経営体の持続可能な農業経営への支援に向けた精力的かつ現場目線による地道な普及活動を通して,従来両立が困難と思われていた水稲の増収と食味の向上の実現に多大な貢献をした。先ず,高齢化による生産者数の減少および気候変動に伴う作柄不安定化など農村を取り巻く環境が厳しい状況下での大規模稲作経営体の経営を支援するために,高温年における根の健全化に着目した出穂期後の適正な水管理やスマート農業の導入効果などについての実証試験を行った。次に,この実証試験の結果に基づいて大規模経営体における増収と食味向上を両立するための生産技術マニュアルおよび経営戦略の構築と水稲GAPの実施に向けたガイドブックを作成した。
さらに,これらの取り組み内容を本研究会の第8回講演会(2016年,宮崎:シンポジウム基調講演,宮崎県の施設園芸地帯における水稲生産の課題について),第9回講演会(2017年,福井:一般講演,宮崎県の早期栽培地帯における良食味品種の多収栽培について),第10回講演会(2018年,秋田:一般講演,大規模稲作経営体を対象とした生産性向上のためのしくみづくりに向けた取組事例)において紹介した。
こうした福川泰陽氏の良質・良食味米生産に対する長年にわたる真摯な普及指導と食味に関連する優れた講演発表は本研究会の活性化に大きく寄与するものであり,日本水稲品質・食味研究会貢献賞に値する。
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【奨励賞】
2024年 崔中秋
業績名:中国における水稲の食味評価とブランド化に関する研究
授賞理由:
崔中秋氏は日本式の食味官能試験法を中国へ導入するために,先ず中日パネルの嗜好性を比較し,食味に対する感覚は両国パネルとも同じ傾向にあることを見出した。続いて中国人パネルの食味識別能力について検討し,識別能力が高いパネル構成員の割合が日本人パネルよりも低いことを明らかにした。これらより,日本式の食味評価法を中国に導入しても大きな支障はないが,その前にパネル構成員に対する食味に関する教育と食味の識別訓練が必須であると指摘した。
一方,天津市は古くから,良食味で知られる「天津小站稲」の産地として名を馳せてきたが,最近ではその食味に対する評判は落ちてきている。このため天津市政府は,新しい小站稲品種による産米のブランド化計画(天津小站稲産業振興計画)を立ち上げた。崔氏は,新しく小站稲に採用された4品種と既存の4品種の食味を官能試験によって比較し,小站稲品種の食味は既存品種よりも良好であることを実証した。中でも金稲919は優れた食味特性と安定性を備えた画期的な良食味品種であることを認めた。また,天津小站稲品種の玄米,胚芽米,白米の食味特性を調査し,天津小站稲品種の胚芽米の食味は白米と差がないことを明らかにした。
以上の知見は天津小站稲の付加価値の向上とブランド化に大きく益するものである。さらに崔中秋氏は38歳と若く,今後一層の活躍が期待されることから水稲品質・食味研究会奨励賞を授与するに値する。
以上